仮面ライダーって面白いですか?「アマゾンズ」が突きつける平成ライダーの課題とこれから

「今の仮面ライダーって面白いですか?」


そう問いかけたのは東映の制作プロデューサーにて「仮面ライダーアギト(アギト)」「仮面ライダー龍騎(以下龍騎)」といった平成ライダーの制作に携わって来た白倉伸一郎氏だ。この発言は3月18日に行われた「仮面ライダーアマゾンズ(以下アマゾンズ)」の製作発表会見で白倉氏が述べたものである。


「アマゾンズ」はamazonプライム・ビデオが日本製作オリジナル作品第1弾として誕生させた特撮ドラマ。amazonプライム・ビデオ限定配信の本作は現行のテレビシリーズの「仮面ライダーゴースト」とは完全差別化され、ホラーやバイオレンス要素を追求した挑戦的な作品になっている。

色々と物議を呼びそうな発言だが、自分は「アマゾンズ」のコンセプトと合わせ、平成ライダーの現状と問題点(弱点と言っても良い)を的確に突いていると思った。そこで今回は、自分なりに平成ライダーを分析した考察をお伝えしようと思う。


なぜ仮面ライダーが年間3本もの映画を公開し、大量の玩具を販売するようになってしまったのか?なぜ「アマゾンズ」は誕生したのか?今の平成ライダーを楽しんでいる方も不満を持っている方も、少しでも平成ライダーが今どんな状態なのか伝われば幸いである。


結論から言うと、平成ライダーは「商品として完成している」のである。


今の平成ライダーはほぼ以下のような1年間の流れを送っている。10月に新作が放送開始。今年のライダーを紹介するようにフォームチェンジや多彩な能力を披露していく。12月に前作のライダーと共闘するMovie大戦。年明け頃に2号ライダー登場・主人公パワーアップ①がある。3月に春映画があり、それに前後して主人公パワーアップ②とスーパー戦隊との合体スペシャルがある。6月頃に主人公パワーアップ③があり、8月の夏映画で集大成を迎え、9月末に放送を終了する。

さらに今の平成ライダーは毎年キーアイテムが存在する。「仮面ライダーゴースト(以下ゴースト)」のアイコンや「仮面ライダードライブ」のシフトカーのようなものだ。このアイテムはライダーの変身・フォームチェンジ・パワーアップ全てに関わり、上記のスケジュールに合わせ、番組に登場したアイテムが玩具として発売される。


以上が今の平成ライダーの現状である。このような流れは2009年の「仮面ライダーW」から特徴的になり今の「ゴースト」に至る。このような現状が平成ライダーの成功であり、「アマゾンズ」が製作されるきっかけになった弱点でもある。


現在平成ライダー最大のスポンサーは玩具会社のバンダイである。出資する企業にとって、上記のようなスケジュールが確立している番組は安心感があるといえる。ようは商品の数字が読みやすいのだ。故に安定したヒットを放ち続けられる。ブランドとしてみた平成ライダーはかなり完成しているといえる。


だか、これは創作物としては弱みを抱えることになる。つまり「挑戦出来ない」のである。年間を通して恒例行事が短期スパンで多数存在しているので、それに合わせた本編製作になる。加えてキーアイテムの玩具も時期に合わせ活躍させないといけない。しかもライダーが主役以外にもいるのだ。約束事が膨大に存在しドラマを挟む余地が少なくなってしまっている。


更に追い討ちをかけるのが、表現の規制だ。「仮面ライダー鎧武(以下鎧武)」の脚本を務めた虚淵玄氏は例え怪人に襲われて犠牲者が出るという表現は許可がなかなか下りなかったという「鎧武」製作時の体験を話している。また、虚淵氏によれば、「仮面ライダーフォーゼ」の主人公・如月弦太朗のリーゼントの髪型に抗議の嵐が来たことがあり、制作側に抗議されそうなことは先回りしてやめる傾向があるというのだ。


かつて「仮面ライダー555(以下555)」で怪人のオルフェノクに市民が襲れて砂になって死んでしまうシーンが生々しく描かれていたが、現代の「ゴースト」は魂が抜かれても、眼魔を倒せば元の日常に戻る。また戦う敵もアイテムを体から抜けば怪人じゃなくなるものや、欲望や絶望から生まれた怪物、機械生命体などライダーが暴力を振るい倒しても人殺しに見えない言い訳がされたような設定が多い。


以上に挙げた成功したコンテンツ故の挑戦できない守りの姿勢、抗議を怖れた映像表現。これら2点が今の平成ライダーを健全な一方ある種平凡なトゲのない作風にしてしまっている。「仮面ライダークウガ」より始まった平成ライダーの初期はシリーズを継続していくという意識が低かった。一作毎独立した世界観を持ち、翌年はライダーが作られないかもしれないリスクを抱えつつも、その時にしか出来ない挑戦を続けていた。


時に賛否両論を巻き遅しながらも、その挑戦は多くの人の心を打ち、結果的に17作も続くシリーズとなった。冒頭の白倉プロデューサーの「今のライダーって面白いですか?」発言は、平成ライダーのアイデンティティであった「挑戦」が出来なくなっている現状への問題提起だったのだ。


そこに登場したのが「アマゾンズ」だ。


Amazonプライム・ビデオという現状の平成ライダーとは異なりフィールドを得たことで、玩具の催促や映像表現の自粛というしがらみから解放された「アマゾンズ」は初期平成ライダーが持っていた挑戦の魂を取り戻そうという気概にあふれている。スタッフも「龍騎」「進撃の巨人」を務めた小林靖子さん、「アギト」「555」など多くの平成ライダーを担当した田崎竜太監督が参加するなど製作陣も初期平成ライダーを支えたスタッフが揃った!


おそらく今後の平成ライダーはTVシリーズは現状の安定志向の番組が作られていき、今回のAmazonプライム・ビデオや去年のdTVで展開した「仮面ライダー4号」のようにTV以外のフィールドでTVシリーズではできないような作品が作られていくという2本柱の体制になっていくのではないか?というのが自分の今後の平成ライダーの展開に関する考察だ。「仮面ライダーアマゾンズ」は全13話の予定。Amazonプライム・ビデオという新しいフィールドで繰り広げる新たな仮面ライダーの世界を刮目して見よ!


仮面ライダーアマゾンズ公式