仮面ライダービルドが創ってきたものは何だったのか?

8月に放送を終え、終盤の怒涛の展開には多くの視聴者が涙し、最新作「ジオウ」では1,2話のゲストとしてしっかり後輩を見届けた「仮面ライダービルド」


 思えば序盤の逃亡した万丈と共に葛城巧殺害事件の真相を追いながら桐生戦兎の秘密に迫る展開から、北都・西都との戦争編をはさみ、地球外生命体・エボルトとの地球の存続をかけた宇宙規模の戦いへ向かっていったように1年を通して様々な展開を見せてきた「ビルド」。


「創る・形成するっていう意味のビルドだ」


とは劇中の言葉ですが1年を通したTVシリーズで「仮面ライダービルド」が何を創りあげてきたのかを今回は考えていこうと思います。



1年の放送を終えて率直に思ったのは、ビルドというキャラクターのように2つの物語を組み合わせたストーリーだったということです。


 それは「創られたヒーロー:ビルドが本物のヒーローになる物語」と「戦兎と万丈の2人のコンビの物語」です


まずは「創られたヒーロー」としてのビルドの物語です。


その出自に戦うべき悪と同じルーツを持つというのは仮面ライダーシリーズに連綿と受け継がれるテーマですが、ビルドは悪にとって仕立て上げられた作り物・偽りのヒーローでした。


ビルドをはじめとしたライダーシステムは軍事兵器として作られ、スマッシュとの戦いも美空にボトルを浄化させるために用意されたスターク=エボルトが用意したシナリオであり、その後続く戦争やライダーのパワーアップもすべてはエボルトが力を取り戻し、地球を滅ぼす計画の一端に過ぎなかった。


 戦兎はまさにライダーごっこをさせられていたわけですが、エボルトの手の平で踊らされていた状態から戦兎は徐々に本物のヒーローになっていきます。


 そうなることができたのも彼が常々口にしていた『ラブ&ピース』という信念でしょう。


桐生戦兎という人物ですらエボルトによって創られたものであるなか、『ラブ&ピース』の信念は彼自身のものでした。(この信念が父・葛城忍から引き継いだものであるということが劇場版Be The Oneで明かされました)


 どんな苦境でも『ラブ&ピース』を貫いたことで、万丈はライダーとしての自覚に目覚め、敵として現れたグリスやローグも最終的には仲間として力を合わせることができました。


そして結果としてエボルトの野望を砕き、『ラブ&ピース』の世界を実現することができました。


これによってビルドは正真正銘のヒーローになれたわけなのですが、私は戦兎の『ラブ&ピース』の信念がどこまでも利他的な信念だったからこそ、実現できたのだと思います。


「見返りを期待したら、それは正義とは言わねえぞ」


これは戦兎自身が万丈に向けて言った言葉ですが、ビルドは本当に見返りのないヒーローだったと思います。


 ビルドがどれだけ愛と平和のために戦っても、守るべき市民にとっては仮面ライダーは戦争の兵器としてしか思われていませんでした。

 

 劇場版では洗脳されたとは言え、ビルド殲滅計画のもと市民から襲われることもありました。


 エボルトが最終決戦をもちかけ、ブラックホールが地球に迫る中でようやく市民はヒーローとして助けを求められますが、全てを救うため新世界を創りあげたことで歴史が変わり、戦兎の戦いを知っているものは万丈以外いなくなってしまいました。


 本当に報われることのなかったビルドでしたが、それ故にビルドは真の意味でヒーローだったと感じました。


 現実の世界でも、正しい思いを抱いたり行動をとっていたとしても、必ずしも報われるとは限りません。

 自身が報われることよりも、やらなくてはならないこと、守るべき理想を貫くビルドの姿勢は、現実に生きるいち視聴者である私に勇気をくれました。


さて、もう1つのビルドの物語は「戦兎と万丈のコンビ」としての物語です。





ダブルライダーというのは初代仮面ライダーから続くライダーのお家芸であり、平成でも「仮面ライダーカブト」におけるカブトとガタック=天道と加賀美の関係や文字通り2人で1人だった「仮面ライダーW」の翔太朗とフィリップなど様々なダブルライダーが描かれてきました。


 戦兎と万丈は「W」とは違う意味で2人で1人の関係、文字通りBe The Oneな関係だったと思います。


 戦兎が悩んだときは万丈が、万丈が立ち止まった時は戦兎が手を貸し、背中を押すという関係が1年を通し何度も描かれてきました。


 出会った時は、なりゆきで万丈の逃亡を助けるという最悪な形であり、それすらエボルトに仕組まれたものでした。


 それでもぶつかり合うなかで互いの思いを知ることで、日頃は口喧嘩したりするものの、相方がピンチになれば誰よりも力強く支え、本人でさえ見失った思いを思い出させてくれる存在になっていきました。


 お互いがお互いを認めていてはいても、肝心な場面以外では口喧嘩しているあまりべたべたしない関係は逆に深く信頼し合っていることが伝わってきました。


 また、お互いの信頼が崩れそうになった時には、美空がうまく間に入り2人の間を保っていてくれたと思います。


 最終回、新世界に1人残された戦兎の前に旧世界の記憶を持つ万丈が登場した瞬間、主題歌Be The Oneが流れた時は本当に胸が熱くなりましたし、ビルドの総決算としてふさわしいなと思いました。



仮面ライダービルドは2つのフルボトルをベストマッチさせて戦うライダーでしたが、「仮面ライダービルド」の物語は創られたヒーローが本物のヒーローになっていく物語と戦兎と万丈のコンビの物語のベストマッチによって創られたものだったと思います。



ビルドの物語はひと段落つきましたが、今年12月には「仮面ライダー平成ジェネレーションズFOREVER」にてTVシリーズに続いてジオウとの共演が予定されてますし、Vシネとして新世界を舞台にした万丈=クローズの物語も決まっています。


 ビルドが築いた新世界がどんな方向に向かっていくのか、まだまだ楽しみに見届けていきましょう。